砂漠のギタリスト、と銘打ったミュージシャンの来日公演を観た。砂漠の遊牧民族が結成したバンドだという。砂漠での暮らしを撮った短編映画の上映とバンド演奏をセットにして各国をツアーしているらしい。バンドはギター、ベース、ドラムとロックバンドの編成だが、ワールドミュージックとして紹介されていて「伝説の砂漠の遊牧民族の音楽」という触れ込みだったと思う。聴いたことはなかったがチラシを見て、会場に足を運んだ。
ライブハウスで、まず映画の上映。ラクダだったか馬に荷物を積んで、砂混じりの風に吹かれながら進む集団。会話は英語でもなく、日本語字幕もなく、主催者が説明しながらの上映だった。映画の内容は詳しく覚えていないが、夜になりテントを張って火を囲むシーンがあっただろうか。映像はある種ホームムービーのようで音楽もBGMもなく淡々と砂漠での生活を映す。朝になると日に焼きつけられながら、画面いっぱいの砂煙に集団が消えていった。
その後でスクリーンが上がるとドラムセットとアンプがあり、先ほどまで映像の中にいた青年がエレキギターを下げて出てくる。彼が砂漠のギタリストだ。少し歳を重ねて端正な顔立ち。映像の中から年月をかけて人が出ててきたようで興奮する。バンドが続いて出てくる。そして演奏を始めた。エキゾチックな音階。
彼のバンドの演奏の後、短いトークセッション。最後に観客に質問はないか投げかけられた。誰も手を挙げなかったので、おれは気になっていたことを聞いた。「短編映画には描かれていなかったが、遊牧生活の中でどんな音楽を聴いていましたか?」砂漠のギタリストは「遊牧生活には音楽はありませんでした。成長しヨーロッパに定住してからラジオやテレビで音楽を聴き楽器を手に取りました」と応えた。
素敵な話だが、彼は砂漠のギタリストじゃない。彼の出身は砂漠だが、彼の音楽はヨーロッパで育まれたものだ。砂漠の遊牧民には伝統の音楽スタイルがあるのは事実だが、彼はそれに触れていない。
青年になってヨーロッパに定住してからギターを手に入れて、才能があって上達してミュージシャンになったのを、その演奏を砂漠出身や民族の伝統と結びつけて売るかね。実のところ音楽遍歴としては田舎出身のミュージシャンというだけじゃないか。島根でラジオ聴いてて、青年になって上京してバイトして楽器買ったバンドと同じ。中国で採ったアサリを、熊本の砂浜に一度撒いて、熊本産のアサリとして売るのとは・・・ちがうか。
ワールドミュージックっていうのは時に、音楽そのものよりも民族や出身地にまつわる物語を売る商売なのだとわかった。