坂本慎太郎バンドのライブに初めて行った。最近の曲が好きで気になっていた。形容が合っているかわからないがリズムがファンキーに感じる。あのベースやドラムの生演奏を聴いてみたかった。
仕事終わるのが遅くなり、開演時間が迫っていたので渋谷駅からタクシーで向かった。その途中、会場の方向に向かう人たちを見ていた。初めて行くバンドのライブは、どんな客が来るのかも気になる。
会場は昭和女子大学の人見記念講堂、席は1階後方の隅。おれが席に着いてまもなく、バンドがスーッと出てきて、会場から大きな拍手。演奏が始まった。ドラム、ベース、パーカッション、ギターボーカル、全員の音がよく聞こえる。曲が終わると大きな拍手、そして次の曲。
3、4曲と進んでも客は誰も席を立たない。皆、行儀よく着席している。そういう作法の会場で、そういう聴かれ方をするアーティストのようだ。1階席にぽつんぽつんと2、3人立ち上がって拳を振り上げているが、周囲に広がる様子はない。立っていた人もまたすぐ座る。
おれはじっと座って聴いているのが我慢できなくなった。壁際の通路に出て壁にくっつくようにして立つことにした。身体が揺らせるとやはり、より楽しい。隅の席でよかった。
警備員がやってきて「席に戻ってください。立ってもいいので、ご自分の席でお願いします」と肩をつついた。「席で立つと後ろの人の迷惑になるので」と言うと「そうですか・・・」と警備員は引き下がった。別の警備員がまた来て同じやりとりをしたが「ここ立っててもいいんで、人が来たら通路通してください」と言って去っていった。
みんな行儀よく座って音楽を聴いている中、自分だけ隅の方で立っていて、ばかみたいだった。教室で立たされているよう。客席は、演奏が終わるたびに拍手をしたり歓声をあげたり、静かな一体感がある。そのお作法になじめず、おれは隅の方でボーッと立っているばか。
しかし、そのなじめない感じは曲に合っている気もした。ひとつひとつの曲には詳しくないのだけど「みんなロボットみたい」という詞の曲や「ナマで踊ろう」という曲が演奏された。演奏中微動だにしない客席にシュールに響いていた。この観客は、どんな気持ちで聴いているんだ。
初めは自分がばかみたいに感じたが、曲に集中していると、自分が一番いい場所で楽しめているようにも思えてきた。身体が自然と揺れる演奏が素晴らしかった。
「ディスコって踊るところ」という詞の曲がおそらく、あえて単調で無機質に踊れないように演奏された。レッド・ツェッペリンも、ファンクなのに踊れない曲を作っていたのを思い出す。高度な演奏技術が要求されるジョーク。
「ディスコ」という曲を踊れないように演奏したり、微動だにしない客に「ナマで踊ろう」と歌いかけたり。そもそもロックやファンクのライブ会場として、踊りにくい講堂を選んだのもジョークなのか、わからない。
終演後、男子トイレの長い行列に並んだ。ふと中を見ると、個室は全部空いているのに誰も入ろうとしない。おれは個室に入って小便を済ませた。「席があったら座って聴くもの」「トイレの個室は大きいほう」というルールにきちんと従う人たち。おれと同じ音楽が好きな同好の士とは思えない。本当に、おれはなじめないな、と寂しいものがある。
物販も覗いた。デザインが凝っていて、おれも欲しくなったがTシャツは全サイズ売り切れ。何だ、数百人、数千人の客が、集まってTシャツ買って座って音楽聴いているならバス乗ってユニクロでも行けばいいじゃん、と嫌味を思いついた。こういう意地悪なところがあるから、おれはなじめない。
駅に向かう帰路で、感想を言い合うのが聞こえてくるが、彼らは「すごく楽しんだ」らしい。おれも楽しんだ。楽しかったけど、もう二度と行かないと思った。講堂の傾斜のついた床でずっと立って揺れていたので、足裏がまだしびれていた。