高校生の頃、学校の向かい側にスーパーマーケットが新しくできた。昼休憩に学校を抜け出して、フードコートで昼食をとって、帰ってこれる距離。週に何度か通っているうちに、フードコートの店員さんも覚えてくれて、おれの高校の昼休憩の時間だけ「学生ラーメン」というメニューを作ってくれた。具なしのラーメンに、唐揚を1個浮かべてくれる。麺の大盛は無料で300円。腹の減っている学生を気遣って安いメニューを作ってくれたのがありがたかったし、店員さんが覚えてくれたのもうれしかった。おれの初めての「馴染みの店」かもしれない。

 ある日、フードコートからの帰り、校門に物理の教師が立ってた。東大卒の若い女性教師。脳みその大部分を物理法則に割いているからか、喋る言葉が教科書体で見える。

誰か来客を待っているのかと思って、手を振ったら「どこへ行っていたの!」と大きな声を出した。今ならわかる。教師のほうも「こんなこと、どうでもいいけど立場上怒っておかないといけない」と面倒ながら、職業を演じていたんだろう。

「昼ごはん食べに行ってました」
「学校の外に出ていいの!」
「え、いいと思って。今日弁当作れなかったし・・・」
「購買でパン売ってるのにどうして外に出るの!」
おれが「たまには温かいもの食べたいから」と答えたら、教師は急に黙ってしまった。
「じゃあ、教室戻りまーす」

階段上りながら「あ、やべ、おれ母子家庭になったばかりだから、みじめぽく聞こえたぞ」と気づいた。物理教師は用意してたセリフを消化しきって頭空っぽになって黙ったのだと思った。違う。心配してくれていたんだ。勉強で頭がいっぱいの人だと思って、少し馬鹿にしていて申し訳ない。

このことを「人に心配かけてしまった話」として、たまに思い出す。高校卒業後に学校を訪れる機会はあったが、その物理教師は若くして亡くなってしまっていて、このことを話すことはできなかった。