おれはハゲかけた坊主頭なのだが、後頭部にミステリーサークルを作っている。一見、剃り残しかな、と思われるくらいの大きさで、ハートマークを残している。単純に変でおもしろいと思って始めて、もう数年になる。

 中年のおじさんの後頭部なんか誰も見ない。見てもふつうの人は変なのと思ってそれまで。ところが、機嫌の悪い奴は過敏に反応する。

仕事で会った人で、ほんの若干名だが「仕事なのに、そんな髪型していいんですか」とクレームをつけてきた。収拾するのに手間がかかったし、職場にも迷惑をかけたのは申し訳なかった。でも、おじさんの後頭部の毛について、真面目にクレームをつけてくる大人って、後から思い返すと可笑しい。

おれがこどもの頃に、ヘアヌードが流行して大事なところのヘアは猥褻物なのかという論争があった。当時ヘアに過敏に反応する大人はたくさんいた。大事なところのヘアなら論争の価値はあるけど、おじさんの後頭部のヘアにいいも悪いもないよ。

 こういう大人が機嫌の悪い奴だ。上機嫌でいれば、中年のおじさんの後頭部なんてどうでもいい。

 機嫌の悪い奴はバカ。これはおれがバカなりにたどり着いた真理である。一度気づいた後はどの本を開いても、これと同じことが書いてある。同じことにたどり着く本だけをおれが好きになっているのかもしれない。

 自分に顧みては「常に上機嫌でいろ」と思っている。おれは性格がひねくれているが、社会生活上、人当たりはよい。よくなるよう心がけている。おれが臆病で人から嫌われるのが怖いというのもあるが、ひねくれた意思を実現するにはそれが必要だからだ。

どうしても気に食わない出来事があったら、クレームをつけたり陰口を叩いたりするよりも、上機嫌でその出来事をねじ曲げていったほうがうまくいく。機嫌の悪さなど捨てて、人当たりよく周りに動いてもらわないと出来事は解消しない。

 正直、生まれてこのかた、おれの意識していない言動が、機嫌の悪い奴には自然に嫌われる。だから身の回りには蚊はいない。それでも、社会生活上、時々、新しい機嫌の悪い奴とすれ違うことがある。

歳を重ねると、勇気を出して、機嫌の悪い奴には積極的に嫌われていったほうがよいと思うようになった。一時的には嫌な思いをするが、長期的には機嫌の悪いバカが近づいてこなくなる。自分の周りにバリアができる。

バリアを作るのに特別なことをする必要はない。周りに非礼にならない程度に、好きな格好をしたり、行動をとったりしていると、機嫌の悪い奴の方から避けていってくれる。すれちがいざまに肩を小突かれるくらいの嫌な思いをすることもあるけれど、長い目でみればよきことなのだ。

 後頭部のハートマークには、もうひとついいこともあって、機嫌のよい人が褒めてくれることだ。バス停で年上の女性に「かわいいわね」と言われてドキッとした。中年になって、年上の女性に「かわいい」なんて言ってもらえることは、なかなかない。
それだけで価値のあるヘアだ。